本専攻学生の蒲さんと竹延 教授らは、CVD法で成長した二硫化モリブデン薄膜(MoS2)と、電解質の一種であるイオンゲル[1]を組み合わせて柔軟性や伸縮性を持つ新しいトランジスタ(MoS2 TFTs)を作製しました。
このトランジスタは1V以下の低しきい値電圧[2]で動作し、シリコン基板上に転写したMoS2薄膜は12.5cm2/Vsのキャリア移動度と105のオン/オフ電流比[3]を示しました。また、シリコン基板ではなく、ポリイミドフィルム上に作製したTFTは、フィルムを曲率半径0.75mmまで曲げても、その電気特性は維持され、このTFTsが曲がりに強いことが分かりました。さらに、伸縮性を持つシリコンゴム(PDMS)基板上に作製したTFTsは、5%程度引っ張って歪みを生じさせても電気特性が変わらなかったことから、MoS2薄膜を将来の柔軟性・伸縮性デバイスに利用できる可能性を見出しました。
丸めて持ち運べるディスプレイや、服と一体化したタブレットPCなど、薄くて柔らく、軽い情報機器が製品化すれば、私たちの生活はより便利に快適になるでしょう。この実現のためには、情報機器の中枢を担うトランジスタもまた、柔軟で軽くある必要があり、これまでの硬く重いシリコン半導体とは異なる材料を用いたトランジスタ作製の研究が進んでいます。そのひとつが、フィルムやゲルなどの柔らかい基板上に、優れた柔軟性を有する二次元材料(ナノスケールの厚さの材料)を用いてトランジスタを作製するものです。二次元材料には、高い電子移動度をもち、大面積合成が可能なグラフェン(2010年ノーベル物理学賞 受賞対象素材)が最有力候補といわれてきましたが、ゼロバンドギャップ半導体という特殊な性質のため、トランジスタとしての性能を引き出し切れずにいました。この点、今回の研究で用いたMoS2は、適切なバンドギャップをもつ半導体であり、グラフェン同様に層状構造結晶であるためナノスケールの厚さに剥離しやすく、かつ機械的強度が高いという特長を持っています。本研究では、サファイヤ基板上に、剥離ではなく化学気相蒸着法(CVD)により3層分のMoS2薄膜を成長させ、それを様々な基板に転写してトランジスタを作製し、伝導特性や柔軟性を評価しました。